第一章 授業でミョウバンの結晶作り


    
・スチロールコップで一人一個の結晶を





 溶解度の発展として1年生7クラス(278名)で一人1個ずつミョウバンの結晶作りを行いました。容器として一人に一個の透明なスチロールのコップを用意し、保温はせずにそのまま自然冷却して結晶を育成しました。


1、材料の準備

 カリミョウバン(結晶水を含んだ粒の結晶:AlK(SO4)2・12H20)
 ミョウバンは、以下の所から25kg購入しました。消費税や送料を入れて5000円ちょっとでした。正八面体の小さな粒で、種結晶としても使えるので便利です。一般の薬局では、粉末の「焼きミョウバン」がほとんどで、そのままでは、結晶作りに不向きです。(高温の水に完全に溶かせば使えます)

 入手先:大明化学工業 〒399-45 長野県上伊那郡南箕輪村3685-2
     TEL 0265-72-4151

 スチロールのコップ
 生徒全員に作らせるには、人数分の容器が必要です。今回は、220mlの透明なスチロールのコップを使用しました。透明な容器を使うと中の様子が観察できるので失敗が少なくなります。このスチロールコップは、70℃程度のお湯まで絶えられるので湯煎で加熱しても絶えられます。電子レンジで加熱するときは、30秒ごとに止めてかき混ぜるなど、注意が必要です。

 テグス糸
   0.8号のテグス糸で結晶を結びました。

 (コップの蓋)・セロテープ
 コップの上の部分と同じぐらいの大きさに紙を切り、中心に穴を開けて糸が通せるようにしました。


2、種結晶を作る

 入手した大明化学の結晶は、正八面体の粒結晶で、そのまま種結晶としても使えますが、結晶が大きくなると角が二重になったりしやすいです。時間に余裕があれば事前に作っておくと出来上がりの結晶の形や大きさが良くなります。

(1) 飽和水溶液にミョウバンの結晶を追加し、加熱して完全に溶解する。
(2) 液を平バットかシャーレに移し、静かに放置する。
(3) 数時間後(翌日)、形の良い3〜5mm程度の結晶を取り出し、水気を取 って保存しておく。

 大きい結晶ができたり、小さな粉のような結晶ができることもあるので何回かやってみると良いでしょう。今回は、いい加減な濃度にしましたが、以下のデータを参考にしてみて下さい。季節によっても違うと思います。

 ・飽和水溶液100mlにミョウバンを20g加えて加熱溶解する。 (*3 利安)

3、母液を調節する

 どれだけの濃度の溶液を作り、何℃の時に種結晶を入れたらよいか? これが結晶作りの最大のポイントです。今回は、自然に放冷するので、濃度を薄くし、室温近く(35℃ぐらい)に設定しました。

 溶液の調整方法は、A飽和水溶液から作る方法とB水から作る方法の2種類を説明します。今回の生徒実験では、Aの方法を使いました。


 A:飽和水溶液から作る方法
 (1) 飽和水溶液を作る
 今回は、ペットボトルにミョウバンの結晶を適当に入れ、水を加えて良く振る方法をとりました。しばらく静かに置いた後、ゆっくり傾けたときに、残った結晶の周辺にもやもやが見えなくなればほぼ飽和していると思います。できれば前日までに作っておきましょう。
 大きなポリタンクに作っておくと良いかも知れません。

 (2) 母液を調整する
 40人分をまとめて作りました。鍋に飽和水溶液5リットルにミョウバンの結晶を250g加え、45℃程度に加熱して完全に溶解しました。このとき、温度を上げ過ぎると適温まで冷却するのに時間がかかりすぎます。

 少量で作るときは、飽和水溶液をコップに半分入れ、これにスプーン一杯のミョウバンを加えれば良いでしょう。

 結晶を入れるタイミング(温度)は、その日の飽和水溶液の状態で微妙に変化します。試しに結晶を母液に吊して、もやもや(シュリーレン現象)が下に流れるようなら温度が高すぎます。しばらく冷やして、もやもやが消えたあたりが適温でしょう。



 B:水から調節する方法

 今回は、この方法を使いませんでした。季節によっても違うと思いますが、次の濃度を参考にしてみて下さい。

 水300mlに対してミョウバンの結晶を55g加え、加熱して結晶を完全に溶かします。種結晶を入れるタイミングは、体温よりやや低めの35℃を目安にする。(*3利安)


 この方法だと、溶解度の数値がそのまま使えます。しかし、「理科年表」に掲載されている数値は、無水のミョウバン(焼きミョウバン)の値です。結晶したミョウバンには、結晶水が入っていますので次の表を参考にして下さい。

水100gに対する溶解度g (理科年表より)
無水のミョウバン 結晶したミョウバン
0℃ 3 g 5.7 g
20℃ 5.9 g 11.4 g
40℃ 11.7 g 23.8 g
60℃ 24.75 g 57.4 g
80℃ 71 g 321 g
1℃単位の溶解度は、データがありませんので、上の表をもとに計算をして推測してみました。参考にしてみて下さい。

水100g(5kg)に対する結晶したミョウバンの溶解度

(結晶水を含むミョウバンの推測値g)

温度 水100g 水5kg 温度 水100g 水5kg
20 11.4 570 31 15.6 781
21 11.5 576 32 16.3 816
22 11.7 585 33 17.1 854
23 11.9 596 34 17.9 894
24 12.2 610 ★ 35 18.7 937
25 12.5 627 36 19.7 983
26 12.9 646 37 20.6 1031
27 13.4 668 38 21.6 1082
28 13.8 692 39 22.7 1136
29 14.4 719 40 23.8 1192
30 15.0 749

4、種結晶を結ぶ

 種結晶にテグス糸を付けます。一番確実なのは、結ぶ方法です。接着剤(セメダインなど)でも可能でが、液に入れたときに落ちるものが多いのであまりお勧めできません。


 結び方は、「引きとけ結び」が良いのですが、ミョウバンの結晶の形は結びにくいようです。生徒たちは、随分苦労していました。中には、時間切れで、こちらで結んであげる生徒もいました。

 結んだ結晶は、コップの大きさに切った紙にセロテープで固定しました。


 最も簡単な方法として、細いエナメル線を熱して種結晶に突き刺す方法もあるようです。(*9)



5、入れるタイミング(温度)を調べる

 種結晶を母液に入れるタイミングが、結晶の出来を決める重要なポイントです。温度が高すぎると種結晶が溶けて落ちてしまいます。逆に温度が低すぎるとゴツゴツの結晶になったり、下に溜まる結晶が増加し、種結晶の成長が悪くなります。濃度が分かっているときは、飽和する温度を予想できますが、飽和水溶液から母液を調節するときは、予想が困難です。この場合は、次のようにシュリーレン現象で適温を見つけます。


・結晶を溶かした直後の母液は、温度が高すぎます。しばらく温度が下がるまで自然に冷却します。
・母液の温度が40℃程度に下がったら、結晶(種結晶と別がよい)を吊し、光を通してじっくりと結晶の周辺の様子を観察します。結晶が溶けだし、もやもや(シュリーレン現象)が下に流れるようなら温度が高すぎます。もう少し時間を置いて冷ましてからもう一度調べます。
・もやもやが出なくなったら適温と判断します。

 今回の授業では、母液を生徒に配ったあと、こちらで結晶を入れるタイミングは、一斉に指示しました。

6、水洗いして結晶を入れる

 適温が決まったら、水を入れたビーカーに種結晶を一瞬だけ通して軽く水洗いしてから母液に入れさせました。これは、種結晶やテグスに余分な細かい結晶やゴミが付くのを防ぐためです。


 この後は、戸棚に入れて1〜2日間静かに置いておくだけです。1日で90%、2日にほぼ100%結晶が成長します。
 今回は、こちらで放課後に確認し、結晶が溶け落ちているものについては結び直してあげました。

7、授業を終えて

 <結果>

 結晶のでき具合は、クラスによって大きく違いました。母液に結晶を入れる温度が影響しているようです。初めのクラスは、以下のような結果になりました。(このときは、個々に母液を作らせました。)

 完成した結晶
 ・大きさ 平均 11mm(5mm〜20mm)
      平均 1.3g(0.3g〜2.7g)
      結晶を多く溶かした生徒が大きいとは限らない(下に溜まる結晶の
      量が増える)結晶が落下し、後で結び直した生徒は小さめ。
 ・形   きれい:10人 少し凸凹:12人 すごく凸凹:3人
 ・色   ほとんど透明:4人 中心以外は透明:20人 全体的に白い:1人

 状態が良いクラスでは、6g(一辺が20mm)程度の結晶ができた生徒もいました。


 <生徒の感想等>

・もっときれいに作りたい。どうすれば良いんだろう。
・簡単に結晶ができた。
・思ったより大きくできた。面白い。
・もっと大きくしたい。
・あまり大きくならなくて残念だった。
・きれいな結晶だなあと思った
・すごく大きくなった。結晶って、けっこう作るのが大変。でも、きれい。
・下の方に結晶が沢山あった。大きいのから小さいのがあってきれいだった。
・中心が白くなるのはなぜ?
・何で下に結晶が溜まるのか?
・もう絶対にきれいな結晶を作ります。


 結晶を観察した後、できた結晶と飽和溶液は、ラップをしてプラスチックのコップごと家に持ち帰らせました。また、ミョウバンの結晶は、一人薬さじ1杯程度配布しました。


8、結晶の保存方法

 ミョウバンの結晶は、直射日光が当たらなければ空気中でも問題はないと思います。傷が付かないように紙に包んで持ち帰りましう。落としたりするとすぐに割れてしまいます。手でさわると表面がベトベトして不透明になります。透明なケースに入れて飾っておくと良いでしょう。また、透明なマニキュアやラッカーを表面に塗る方法もあるそうです。

☆はみだし情報 1リットルのビーカーで40人分の結晶作り


 細谷さんは一クラス分のミョウバン作りを1リットルで行うそうです。
 母液は1リットルビーカーに作り、上に割り箸を乗せます。テグス糸を使わずに、細いエナメル線を使い、端を熱して種結晶に突き刺して固定します。エナメル線のもう一方の端に名前の紙を貼り、曲げてビーカーの割り箸に固定すればセット完了でです。1リットルに40人分吊すことも可能だと言うことです。
 これなら、簡単にできるし、母液も次のクラスで再利用できるので結晶の量も少なくてすみますね。
             藤沢市立村岡中学校 細谷さんからの情報でした

参考データ:

結晶の形が完全な正八面体として、密度から大きさと質量の関係を計算し表にまとめてみました。

ミョウバンの結晶の大きさと質量
(大きさは正三角形の一辺の長さ)
一辺
(mm)
質量
(g)
一辺
(mm)
質量
(g)
一辺
(mm)
質量
(g)
6 0.2 50 103.2 180 4813.9
8 0.4 60 178.3 190 5661.6
10 0.8 70 283.1 200 6603.4
12 1.4 80 422.6
14 2.3 90 601.7
16 3.4 100 825.4
18 4.8 110 1098.6
20 6.6 120 1426.3
25 12.9 130 1813.5
30 22.3 140 2265.0
35 35.4 150 2785.8
40 52.8 160 3381.0
45 75.2 170 4055.3
密度=1.751 (20℃)として正八面体の体積から次のように質量を計算しました。
m=8.25429×10-4×l3 [ただし一辺=l(mm)、 質量=m(g)]

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