個別探求実験
はじめに
研究の内容
1.研究の方法
(1)
個別選択実験を取り入れた学習過程
第1図 基本的な学習過程
(2)研究の進め方
2.気体の個別選択実験
(1)指導計画
学習の形態 | 主な指導内容 (4時間扱い) |
グループ 実験 ↓ 一斉指導 ↓ 個別実験 (共通) ↓ 個別選択 実験 ↓ 一斉指導 |
○気体の性質---------------------------------1時間 グループ実験を通して酸素・窒素・二酸化炭素の性質の違いを見い ださせる。 ・性質調べ<水に対する溶け方・物を燃やすか・石灰水> ○気体の捕集方法------------------------------0.5時間 アンモニアの水に対する溶解性と二酸化炭素の重さ(密度)の演示 実験をもとに、適した捕集方法を見いださせる。 ○共通の個別実験------------------------------0.5時間 水素の発生・捕集・性質を調べる実験を個別に行い、基礎的な実験 技能を身に付けさせる。 ・発生方法<塩酸+マグネシウム> ・捕集方法<水上置換法または上方置換法を選択> ・性質調べ<重さ・物を燃やすか・気体が燃えるか> ◎個別選択実験--------------------------------1時間 生徒一人一人に発生方法を選択させ、実験を通して気体の性質を調 べさせる。 ・発生方法<6種類から1つ選択> ・捕集方法<3種類から1つ選択> ・性質調べ<7種類から1つ以上選択> ○実験結果の発表------------------------------1時間 実験結果を発表させ、気体の性質のまとめを行う。 ・選択した発生方法別にグループ内で発表させる ・全体で代表生徒に発表させる (実験からわかった発生した気体の性質・気体名) |
(2)個別選択実験の装置
ア 気体の発生装置
第2図 気体発生装置の作り方
【材料】(40人分)
【作り方】
・ポリエチレン管を8cm切り、
端から2cmの部分を炎からやや離して、管を回しながら熱すると透明になってくる。このとき、余り近づけて熱すると燃えてしまうので注意がいる。
・ポリエチレン管を静かに引っ張りやや細くした後、Aの点線の部分で切断する。
・切断したポリエチレン管の端をBのように炎の側面で回転させながら熱する。このとき多少燃えてもかまわない。すぐにフィルムケースの蓋に押しつけ圧着する。
・接合した部分を強固なものにするために、接合部の盛り上がった部分をCのような赤熱した針金で熱融着しする。(20Wぐらいのハンダごてを使うと能率的である)
・赤熱した釘でDのように蓋の裏側から管の根元に穴を開ける。
・切断したポリエチレン管の長い方は、Eのように針金を通し、L字型にし、お湯に漬けて整形した後、冷却して針金を抜く。(水上置換のときに使用する)
・使用するときは、Fのようにフィルムケースに加工した蓋をし、まがるストローを差し込む。水上置換の時は、ストローの先端にL字管をつけると操作し易くなる。
(3)個別選択実験の内容
ア 気体の発生方法
方法 | 使う薬品の名前 | 混ぜ方 | 捕集方法 |
A | 2M 塩酸 マグネシウムリボ |
フィルムケースの4分の1 1本 (7cmぐらい) |
水上置換法 上方置換法 |
B | 塩化アンモニウム 水酸化ナトリウム |
薬さじ(大)1
両方混ぜてから水を薬 さじ(大)1 小量入れる |
上方置換法 |
C | 2M 塩酸 貝がら |
フィルムケースに4分の1 フィルムケースに4分の1 |
水上置換法 下方置換法 |
D | 10% 過酸化水素水 二酸化マンガン |
フィルムケースに4分の1 薬さじ(小)1 |
水上置換法 |
E | 漂白剤 ※注1 二酸化マンガン |
薬さじ(大)1
両方混ぜてから水を薬 さじ(小)1 4分の1入れる |
水上置換法 |
F | 入浴剤 ※注2 水 |
薬さじ(大)1 フィルムケースに4分の1 |
水上置換法 下方置換法 |
第1表 気体の発生方法と捕集方法
イ 気体の捕集方法
第3図 気体の捕集方法 ウ 気体の性質の調べ方
第4図 気体の性質を調べる方法
(4)生徒実験の結果
第2表 生徒の実験結果の集約(一部)
気体A(水素)
塩酸+マグネシウム 実験した生徒数=3人
実 験 結 果 (人数) | |
におい | なし(1)、こげたにおい(1) |
水に対する溶け方 | 溶けない(1) |
重さ(シャボン玉) | 浮いた(2) |
物を燃やすか(線香) | |
気体が燃えるか(マッチ) | ポンと鳴って爆発(1) |
石灰水に対する変化 | 変化なし(1) |
酸性/中性/アルカリ性 | BTBが緑(1)、青(2) |
気体B(アンモニア)塩化アンモニウム+水酸化ナトリウム
実験した生徒数=6人
実 験 結 果 (人数) | |
におい | 変なにおい1、アンモニア1、鼻にツーンときた1、洗剤1 |
水に対する溶け方 | すごく溶けた1、溶けた1、溶けない1 |
重さ(シャボン玉) | ふくらまない1、上にあがった1、下に落ちた1 |
物を燃やすか(線香) | (選択者なし) [消える] |
気体が燃えるか(マッチ) | 燃えない(1) |
石灰水に対する変化 | 変化なし(2) |
酸性/中性/アルカリ性 | BTBが青(5) |
気体D(酸素)
過酸化水素水+二酸化マンガン
実験した生徒数=6人
実 験 結 果 (人数) | |
におい | ない(1) |
水に対する溶け方 | 溶けなかった(2) |
重さ(シャボン玉) | 下に落ちた(2)、飛ばなかった(1) |
物を燃やすか(線香) | 炎が出た(1)、良く燃えた(3) |
気体が燃えるか(マッチ) | 変化なし(1)、マッチが良く燃えた(1) |
石灰水に対する変化 | 変化なし(2) |
酸性/中性/アルカリ性 | BTBが緑(1)、青(4) |
気体F(二酸化炭素)
入浴剤(柚のバブ) 実験した生徒数=9人
実 験 結 果 (人数) | |
におい | 入浴剤(2)、みかん1、レモン1、甘い1、なし1 |
水に対する溶け方 | 溶けた(1)、溶けなかった(2) |
重さ(シャボン玉) | (すぐに)落ちた(6)、飛ばなかった(1) |
物を燃やすか(線香) | 消えた(1)、変化なし(1) |
気体が燃えるか(マッチ) | 気体が燃えなかった1、マッチが燃えた1、消えた1 |
石灰水に対する変化 | 白くにごった(3)、白から透明になった(1) |
酸性/中性/アルカリ性 | BTBが黄色(7) |
(5)考察
ア 生徒の実験結果について
イ 学習の定着度について
酸 素 | 二酸化炭素 | 水 素 | アンモニア | 平均 | |
水に対する溶け方 | 49 | 57 | 64 | 56 | 57 |
空気に対する重さ | 68 | 88 | 70 | 50 | 69 |
燃 え 方 等 | 88 | 97 | 65 | 76 | 82 |
酸性・アルカリ性 | − | 67 | − | 70 | 69 |
平 均 | 68 | 77 | 66 | 63 | 69 |
今回の実践に於いては、気体の水溶性をさらに理解させるために、次のような2つの演示実験も合わせて指導した。
3.化学電池の個別選択実験
(1)指導計画
学習の形態 | 主な指導内容 (2時間扱い) |
個別実験 (共通) グループ 実験 個別選択 実験 一斉指導 |
○共通の個別実験・グループ実験-------------1時間 食塩水に銅とマグネシウムを入れると電池ができることを見いださ せる ・電解質の確認(個別実験)<電子オルゴール+電池付き電極> ・電池の確認 (個別実験)<電子オルゴール+金属> ・電圧の測定 (グループ実験)<電圧計+金属> ◎個別選択実験----------------------------1時間 多くの実験結果から、一般的に「電解質水溶液に2種類の金属を入 れると電池ができること」を見いださせるとともに、身近な電解質 水溶液や金属に気付かせる。 ・測定方法<前時で行った3種類の方法から選択> ・測定する物質<電解質90種類、金属5種類から選択> ・グループ内で結果を発表させる ・全体で代表生徒に結果を発表させる |
(2)個別選択実験の装置
ア 電子オルゴール
【材料】(40人分)
【作り方】
第5図 電子オルゴールの作り方
イ 電池付き電極
第6図 電池付き電極 ウ
反応皿
第7図 反応皿
(3)個別選択実験の内容
ア 【実験1】電解質の確認
第8図 電解質の確認
イ
【実験2】溶液の違いによる電池の確認
電極の洗浄については実験1と同じとした。
第9図 溶液の違い
ウ
【実験3】金属の違いによる電池の確認
第10図 金属の違い
エ 個別選択の方法
・実験1・2で使用した溶液などの試料(一部省略)
No | 名 前 | No | 名 前 | No | 名 前 |
1 | コーラ | 31 | 梅干し | 61 | みつ豆の白桃 |
2 | みかん | 32 | からし | 62 | 〃 黄桃 |
3 | 塩酸 | 33 | インスタントコーヒー | 63 | 〃 パイナップル |
4 | サイダー | 34 | 砂糖 | 64 | トマト |
5 | バニラエッセンス | 35 | だしの素 | 65 | 玉ねぎ |
6 | 食酢 | 36 | アラビアのり | 66 | リンゴ |
7 | メタノール | 37 | 池の水 | 67 | カキ |
8 | 水道水 | 38 | ソース | 68 | キュウリ |
9 | 醤油 | 39 | 水溜まりの水 | 69 | ニンニク |
10 | みりん | 40 | ハコベ | 70 | 緑茶 |
・・ | ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ | ・・ | ・・・・・中略・・・・・ | ・・ | ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
20 | リンス | 50 | ツユクサ | 80 | みそ汁 |
21 | シャンプー | 51 | タンポポ | 81 | 豆腐 |
22 | 漂白剤(酸素系) | 52 | 野菜ジュース | 82 | 牛乳 |
23 | 味の素 | 53 | ファンタグレープ | 83 | キムチ |
24 | 洗濯用の洗剤 | 54 | ポカリスエット | 84 | 大根 |
25 | 重そう | 55 | みかんジュース | 85 | ようかん |
26 | ケチャップ | 56 | カルピス | 86 | バブ |
27 | 固形の石鹸 | 57 | グレープジュース | 87 | バラの花 |
28 | みそ | 58 | みつ豆のチェリー | 88 | オシロイバナ |
29 | わさび | 59 | 〃 シロップ | 89 | ハハコグサ |
30 | 歯磨き | 60 | 〃 寒天 | 90 | 食用油 |
・実験3で使用した金属
1:銅 | 2:鉄(釘) | 3:亜 鉛 | 4:アルミニウム | 5:マグネシウム |
第4表 実験で使用した試料の一覧表
(4)生徒実験の結果
(5)生徒の実験結果の考察
実験1・2ともに曲が聞こえなかった試料 | メタノール、砂糖、食用油
[3種] 雨水、ミロ、コオニタビラコ、スズメノエンドウ、しょうが |
実験1だけ曲が聞こえた試料 | |
実験2だけ曲が聞こえた試料 | なし [なし] |
実験1・2ともに曲が聞こえた試料 | 誰も測定をしなかった5種類を除く その他の75種の試料 [87 |
第5表 個別選択実験1・2の生徒の測定結果
同じ金属を使ったとき(V) | 2種類の金属を使ったと(V) | ||||
銅と銅 | 0〜0.05 | 銅と鉄 | 0.3〜0.35 | 鉄とAl | 0.2 |
鉄と鉄 | 0 | 銅とZn | 0.3 | 鉄とMg | 0.6 |
ZnとZn | (測定者なし) | 銅とAl | 0.1〜0.3 | ZnとAl | 0.1 |
AlとAl | 0 | 銅とMg | 1.0〜1.2 | ZnとMg | (測定者なし) |
MgとMg | (測定者なし) | 鉄とZn | 0 | AlとMg | 0.75〜1.0 |
第6表 個別選択実験3の生徒の測定結果
4.中和の個別選択実験
(1)指導計画
学習の形態 | 主な指導内容 (1時間扱い) |
個別実験 (共通) 個別選択 実験 |
○共通の個別実験 2種類の濃度の塩酸を水酸化ナトリウムで滴定させ、濃度と体積の 関係を見いださせる。 ・0.05M塩酸の滴定 ・0.1 M塩酸の滴定 ◎個別選択実験 身近な酸を水酸化ナトリウムで滴定させ、酸の濃さの違いを比べさ せる。 ・食酢の滴定 ・清涼飲料水の滴定 |
(2)個別選択実験の装置
ア 簡易ビュレット
第11図 簡易ビュレットの構造
【材料】(40人分)
【作り方】
第12図 簡易ビュレットの作り方
(3)個別選択実験の内容
ア 実験の方法
第13図 中和滴定の方法
イ 中和滴定の試薬
(4)生徒実験の結果
試料溶液(各2cm3) | 水酸化ナトリウム水溶液の体積(cm3) |
塩酸A (0.05M) | 1.0 |
塩酸B (0.1 M) | 2.1 |
アクエリアス | 0.6 |
食酢 (10倍希釈) | 1.5 |
第7表 代表生徒の実験結果
(5)生徒の実験結果の考察
実践結果と考察
1.個別に実験すること
★生徒の意欲的な活動を伸ばし、自然を探求する能力を育てる上で効果的である |
必要がある。そこで、試験管やフィルムケースのように数が揃えられる器具を活用するとともに、小規模でも実験ができるような装置の開発や実験方法の改善が必要であった。一人に一つの実験をするため、使用した器材の種類や数は多かったが、あらかじめグループ毎に小分けしたことで、混乱なく配布することができた。
第14図 生徒アンケートの結果
2.個別に実験方法を選択すること
★生徒の自然に対する科学的な見方や考え方・関心を高める上で効果的である ★生徒の個性や能力に応じて主体的に探求する態度を育てる上で効果的である |
【気体】 | 【化学電池】 | 【中和】 | |
個 別 化 に 関 す る 感 想 |
・じっくりと様子を見れるので、やり易かった。 ・気体の発生装置があり、 実験が楽にできた。 |
・ただ見てるより、自分で実験できるので良かった。 ・曲で電流を調べるのが楽しかった。 ・部屋中に曲が響いたが、耳の近くにやるときれいに聞こえて楽しかった。 ・装置が使い易かった。 |
・1滴で色が変わるので、1滴の重要性がわかった。 ・集中してできた。 ・一生懸命やった。 ・色を変えるのが面白かった ・緑にするのに苦労した。 ・わからない部分は聞いた。 ・わかり易かった。 ・2つ目までしかできなかったので続きをやりたい。 ・蒸発もやりたかった。 |
選 択 に 関 す る 感 想 |
・自分で考えた方法でやる 実験が一番楽しかった。 ・ドキドキ、ハラハラで良 かった。 ・充実してできた。 ・気体の性質を覚えるのに 苦労した。 ・わかりにくい実験もでき るようになった。 ・気体のことが良くわかっ たから面白かった。 ・時間が足りなかった。 ・もう一度やってみたい。 |
・一人ずつ違う実験ができ て面白かった。 ・時間が短く感じた。 ・ジュースや料理に使うも のを調べられて良かった。 ・意外な物に電流が流れた り電池になったりして、 不思議で驚いた。 ・もっといろんな種類を調 べてみたい。 ・電池を作ってみたい。 ・混ぜると電気が強くなる か調べてみたい。 ・どうして電流を流れたり 電池ができたりするかを 知りたい。 |
・2つ目までしかできなかっ たので続きをやりたい。 ・蒸発もやりたかった。 |
第8表 各実験の生徒の感想の分類
ができた。実験後に「もっと調べてみたい」と考えている生徒が多いことは、生徒が自然に対して関心を示し、主体的に探求しようとする態度が身に付いてきた現れと考えられる。このように、個別選択実験は、生徒の自然に対する科学的な見方や考え方・関心を高め、生徒の個性や能力に応じて主体的に探求する態度を育てる上できわめて効果的な指導方法であることがわかった。また、このような実験の内容としては、「気体」のように探求的な場合や「化学電池」のように帰納的に法則性を導く場合に適していることがわかった。
第15図 生徒アンケートの結果
おわりに
一人ずつ実験をしたことはなく、やる前はオロオロしていたけど、いざやって みると自分だけでじっくり様子を見られるのでとてもやり易かったです。そして、 私達は、後にも前にもこんな機会は少ないだろうからとても良い経験でした。 |
参考文献
1.京野勝 他.1987.化学教材の開発と系統的位置づけに関する研究.神奈川県立教
育センター研究集録6:37-40
2.桜井隆一 他.1991.ポリエチレン管やフィルムケース等を使った簡易実験器具の
製作と実験.神奈川県立教育センター研究集録10:39-42
3.文部省.1989.中学校指導書理科編
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