個別探求実験

はじめに

中学校の新学習指導要領の理科の改善の基本方針の中では、「観察・実験の重視」、「問題解決の能力」を培うこと、「自然を探求する能力や態度」を育てること、「日常生活とのかかわり」などに配慮することが述べられている。これを達成するためには、自然の事物・現象を調べる過程において、生徒自らが課題を持ち、自分が考えた方法で調べるなど、生徒の主体的な活動が重視されなければならず、学習過程においても個別化・個性化を図る工夫努力が必要であると考えた。
京野・村上(1987)らの研究によると、モジュール方式を取り入れた学習指導は、生徒の学習意欲を高め、主体的な活動を伸ばし、学習効果を上げるきわめて有効な指導方法であるとともに、個性化、個別化にも対応できると報告している。このモジュール方式は、準備されたテキスト・VTR・パソコンなど多種多様な自己完結性を有するモジュールの中から生徒自らのペースで学習できるようにしたもので「多岐的な探求活動」という言葉で置き換えることができる。しかし、この方法は、事前の準備や授業中の対応など、教師にかかる負担が大きくなることや評価の方法などが問題として挙げられている。
本研究では、生徒の日常生活のかかわりを配慮し、身近な素材を使った実験教材・教具の開発を行い、さらに、探求活動を重視した個別選択実験を取り入れた指導法について授業実践を通して研究を行った。

研究の内容

1.研究の方法

(1) 個別選択実験を取り入れた学習過程

一つの単元すべてをモジュール化して教材を準備するのは、教師の負担も大きく、授業時数も多く必要とすることから、より現実的な方法として、第1図のように授業の流れの中で部分的に個別選択を取り入れた個別実験(以下、個別選択実験と言う)を考えた。

第1図 基本的な学習過程

この学習過程は、一斉指導の中で、課題の設定・基本操作などを扱い、次に個別に実験内容を選択して計画・実験を行い、再び一斉指導の中で結果の発表やまとめの学習をするものです。このような個別選択実験は、モジュール方式のように学習の内容を自分で選択でき、しかも教師の負担を大きくしないで個別化に対応できると考えた。
このような実験の内容に於いては、帰納的に法則性を導き出す場合や補充・深化として扱う場合に有効であると考え、身近な素材を使うことで日常生活に根ざした指導ができると考えた。

(2)研究の進め方

個別選択実験の教材の選定については、次の3つの条件を満たしているものが適していると考えた。
@ 一人に一つの器具で実験でき、実験装置の構造が単純であること
A できるだけ共通の装置を用い、実験項目が多く選択できるもの
B 生徒の身近にある素材が実験に使えるもの
この考えに従って、次の3つの教材を開発し、指導法について身近な素材を使って実践研究した。
@ 簡易気体発生装置(1年「気体の発生」)
A 低電力でも音が出る電子オルゴール(3年「化学電池」)
B 使い捨て注射器を利用した簡易ビュレット(3年「中和」)

2.気体の個別選択実験

中学1年の気体の単元では次の目標が掲げられている。
・気体を発生させてその性質を調べる実験を行い、気体の種類による特性を見いだすとともに、気体を発生させる方法や捕集方法などの技能を身に付けること。
これを達成するため、次に示す指導計画により、個別選択実験を取り入れた4時間の授業実践を行った。

(1)指導計画

学習の形態 主な指導内容 (4時間扱い)
グループ
実験

一斉指導

個別実験
(共通)

個別選択
実験

一斉指導
○気体の性質---------------------------------1時間
グループ実験を通して酸素・窒素・二酸化炭素の性質の違いを見い
ださせる。
・性質調べ<水に対する溶け方・物を燃やすか・石灰水>
○気体の捕集方法------------------------------0.5時間
アンモニアの水に対する溶解性と二酸化炭素の重さ(密度)の演示
実験をもとに、適した捕集方法を見いださせる。
○共通の個別実験------------------------------0.5時間
水素の発生・捕集・性質を調べる実験を個別に行い、基礎的な実験
技能を身に付けさせる。
・発生方法<塩酸+マグネシウム>
・捕集方法<水上置換法または上方置換法を選択>
・性質調べ<重さ・物を燃やすか・気体が燃えるか>
◎個別選択実験--------------------------------1時間
生徒一人一人に発生方法を選択させ、実験を通して気体の性質を調
べさせる。
・発生方法<6種類から1つ選択>
・捕集方法<3種類から1つ選択>
・性質調べ<7種類から1つ以上選択>
○実験結果の発表------------------------------1時間
実験結果を発表させ、気体の性質のまとめを行う。
・選択した発生方法別にグループ内で発表させる
・全体で代表生徒に発表させる
(実験からわかった発生した気体の性質・気体名)

(2)個別選択実験の装置

ア 気体の発生装置

生徒一人に1つの器具で実験をさせるために、一人でも簡単に扱え、捕集方法の学習にも使えるようにするため、フィルムケースを使った気体発生装置を生徒数分自作した。

第2図 気体発生装置の作り方

【材料】(40人分)

フィルムケース(フジ)
40個、
まがるストロー(日東スト ロー商会)40本、
ポリエチレン管(内径4mm 外径6mm)長さ8cm×40本

【作り方】

第2図のように、ポリエチレン管を熱融着して製作した。

・ポリエチレン管を8cm切り、
端から2cmの部分を炎からやや離して、管を回しながら熱すると透明になってくる。このとき、余り近づけて熱すると燃えてしまうので注意がいる。
・ポリエチレン管を静かに引っ張りやや細くした後、Aの点線の部分で切断する。
・切断したポリエチレン管の端をBのように炎の側面で回転させながら熱する。このとき多少燃えてもかまわない。すぐにフィルムケースの蓋に押しつけ圧着する。
・接合した部分を強固なものにするために、接合部の盛り上がった部分をCのような赤熱した針金で熱融着しする。(20Wぐらいのハンダごてを使うと能率的である)
・赤熱した釘でDのように蓋の裏側から管の根元に穴を開ける。
・切断したポリエチレン管の長い方は、Eのように針金を通し、L字型にし、お湯に漬けて整形した後、冷却して針金を抜く。(水上置換のときに使用する)
・使用するときは、Fのようにフィルムケースに加工した蓋をし、まがるストローを差し込む。水上置換の時は、ストローの先端にL字管をつけると操作し易くなる。

(3)個別選択実験の内容

ア 気体の発生方法

自作の気体発生装置に以下A〜Fの試薬を使って気体を発生させた。
方法 使う薬品の名前 混ぜ方 捕集方法
2M 塩酸
マグネシウムリボ
フィルムケースの4分の1
1本 (7cmぐらい)
水上置換法
上方置換法
塩化アンモニウム
水酸化ナトリウム
薬さじ(大)1 両方混ぜてから水を薬
さじ(大)1 小量入れる
上方置換法
2M 塩酸
貝がら
フィルムケースに4分の1
フィルムケースに4分の1
水上置換法
下方置換法
10% 過酸化水素水
二酸化マンガン
フィルムケースに4分の1
薬さじ(小)1
水上置換法
漂白剤 ※注1
二酸化マンガン
薬さじ(大)1 両方混ぜてから水を薬
さじ(小)1 4分の1入れる
水上置換法
入浴剤 ※注2
薬さじ(大)1
フィルムケースに4分の1
水上置換法
下方置換法
※注1 生協の酸素系漂白剤(界面活性剤が入っていない)
※注2 バブ(乳白色だと二酸化炭素の検出に支障が出ることがある)

第1表 気体の発生方法と捕集方法

個別選択については、グループ(4人)の中で重複がないように生徒一人にA〜Fの1つの方法を選択させた。安全の面から、フィルムケースに入れる試薬の量を4分の1を越えないように指示するとともに、薬品は必要量だけをフィルムケースに小分けしたものをグループ単位に配布した。
ここで、CとFはともに二酸化炭素、DとEはともに酸素を発生するが、これは、身近な物質を利用して「異なる方法を用いても同一の気体が得られること」を見いださせることを意図したものである。

イ 気体の捕集方法

発生させた気体を、第1表から選択した方法で試験管に1〜3本の気体を捕集させ、ゴム栓をさせた。

第3図 気体の捕集方法 ウ 気体の性質の調べ方

試験管に集めた気体(1〜3本)を使い、次に示す@〜Fのうち1つ以上の方法で各自で自由に選択させ、気体の性質を調べさせた。

第4図 気体の性質を調べる方法 (4)生徒実験の結果

第2表 生徒の実験結果の集約(一部)

気体A(水素) 塩酸+マグネシウム 実験した生徒数=3人

  実 験 結 果 (人数)
におい なし(1)、こげたにおい(1)
水に対する溶け方 溶けない(1)
重さ(シャボン玉) 浮いた(2)
物を燃やすか(線香) 変化なし(1) [消える]
気体が燃えるか(マッチ) ポンと鳴って爆発(1)
石灰水に対する変化 変化なし(1)
酸性/中性/アルカリ性 BTBが緑(1)、青(2)

気体B(アンモニア)塩化アンモニウム+水酸化ナトリウム 実験した生徒数=6人

  実 験 結 果 (人数)
におい 変なにおい1、アンモニア1、鼻にツーンときた1、洗剤1
水に対する溶け方 すごく溶けた1、溶けた1、溶けない1
重さ(シャボン玉) ふくらまない1、上にあがった1、下に落ちた1
物を燃やすか(線香) (選択者なし) [消える]
気体が燃えるか(マッチ) 燃えない(1)
石灰水に対する変化 変化なし(2)
酸性/中性/アルカリ性 BTBが青(5)

気体D(酸素) 過酸化水素水+二酸化マンガン 実験した生徒数=6人

  実 験 結 果 (人数)
におい ない(1)
水に対する溶け方 溶けなかった(2)
重さ(シャボン玉) 下に落ちた(2)、飛ばなかった(1)
物を燃やすか(線香) 炎が出た(1)、良く燃えた(3)
気体が燃えるか(マッチ) 変化なし(1)、マッチが良く燃えた(1)
石灰水に対する変化 変化なし(2)
酸性/中性/アルカリ性 BTBが緑(1)、青(4)

気体F(二酸化炭素) 入浴剤(柚のバブ) 実験した生徒数=9人

  実 験 結 果 (人数)
におい 入浴剤(2)、みかん1、レモン1、甘い1、なし1
水に対する溶け方 溶けた(1)、溶けなかった(2)
重さ(シャボン玉) (すぐに)落ちた(6)、飛ばなかった(1)
物を燃やすか(線香) 消えた(1)、変化なし(1)
気体が燃えるか(マッチ) 気体が燃えなかった1、マッチが燃えた1、消えた1
石灰水に対する変化 白くにごった(3)、白から透明になった(1)
酸性/中性/アルカリ性 BTBが黄色(7)
※注:結果が疑わしいものには横線 を、予備実験の結果は[]で記した

(5)考察

ア 生徒の実験結果について

生徒は、個々の能力に応じて実験でき、全員が試験管に1本以上の気体を集め、1種類以上の性質を調べることができた。中には、2種類の気体について7種類の性質を調べる生徒もいた。
水素は、前時ですでに同様の個別実験をしているので選択した生徒が少なかった。BTB溶液が青くなったのは実験で用いた試薬がはじめから青緑色をしていた為である。この反応では、むしろ、未反応の塩化水素ガスが同時に出るので予備実験では酸性の黄色を示すことが多かった。
Fの入浴剤で発生した二酸化炭素は、香料が入っているのでミカンの臭いが観察された。二酸化炭素の水に対する溶け方については、予備実験で1cm程度の液面の変化が観察されたが、操作に習熟していないせいか「溶けた」と記録した生徒が少なかった。
生徒は、実験結果をもとに発生した気体の性質を整理し、気体名を導き出すことができた。さらに、生徒は、教科書に書かれていないような「水素自身は燃えるが、他の物を燃やすはたらきがない」とか、「酸素自身は燃えない」という詳細な気体の性質を体験を通して発見することができた。新教育課程の1年では「化学変化」として扱われないことを考慮すると、このように直接体験を通して生徒に理解させることは大切であると考えられる。

イ 学習の定着度について

授業後に各設問3択の形式で4種類の気体の性質について知識の定着度を調べ、次の表に正答者の%を示した。
  酸 素 二酸化炭素 水 素 アンモニア 平均
水に対する溶け方 49 57 64 56 57
空気に対する重さ 68 88 70 50 69
燃 え 方 等 88 97 65 76 82
酸性・アルカリ性 67 70 69
平 均 68 77 66 63 69
・授業実践クラス32人 ・網掛け は、小学校でも扱っている部分
第3表 知識の定着度(正答%)
酸素と二酸化炭素については、小学校ですでに扱っているので平均の定着度は良いが、新しく学習した水素とアンモニアに関しても大差がなく、個別選択実験による学習の効果は充分にあったと考えられる。
水に対する溶け方は、捕集方法を考えさせる上でも重要な項目である。小学校では、「水溶液には気体が溶けているものがあること」を扱っているが、酸素と二酸化炭素の水溶性については、実践前の調査と比べて10%以上向上しているものの定着度は低い。

今回の実践に於いては、気体の水溶性をさらに理解させるために、次のような2つの演示実験も合わせて指導した。

・炭酸飲料(コーラ)を振って出てくる気体が石灰水を白くすることから、二酸化炭 素が水に溶けることを理解させる。
・アンモニアを入れたペットボトルが、水を入れて振るとつぶれることから、水に非 常に良く溶けることを理解させる。

3.化学電池の個別選択実験

新学習指導要領では中学3年の「化学変化とイオン」の単元では、新しく「化学電池」が導入され、次の目標が掲げられている。
・電解質水溶液と2種類の金属を用いた実験を行い、電流が取り出せることを見いだすこと。
この「化学電池」は、現象的な扱いであり、金属片上の反応や、イオン化傾向は扱わないことになっている。電流の確認の方法については、電流計・豆電球・モーターなどが考えられるが、身近な素材を使った自作電池では大きな電流を取り出すことが難しく、個別実験には適さない。そこで、低電力でも音が出る自作の電子オルゴールを用い、身近な電解質水溶液と関連させて「化学電池」を扱うことによって、実生活に密着した化学現象としてとらえさせることをねらいとした。この目標を達成するため、次に示す指導計画により、個別選択実験を取り入れた2時間の授業実践を行った。

(1)指導計画

学習の形態 主な指導内容 (2時間扱い)
個別実験
(共通)
グループ
実験
個別選択
実験
一斉指導
○共通の個別実験・グループ実験-------------1時間
食塩水に銅とマグネシウムを入れると電池ができることを見いださ
せる
・電解質の確認(個別実験)<電子オルゴール+電池付き電極>
・電池の確認 (個別実験)<電子オルゴール+金属>
・電圧の測定 (グループ実験)<電圧計+金属>
◎個別選択実験----------------------------1時間
多くの実験結果から、一般的に「電解質水溶液に2種類の金属を入
れると電池ができること」を見いださせるとともに、身近な電解質
水溶液や金属に気付かせる。
・測定方法<前時で行った3種類の方法から選択>
・測定する物質<電解質90種類、金属5種類から選択>
・グループ内で結果を発表させる
・全体で代表生徒に結果を発表させる

(2)個別選択実験の装置

ア 電子オルゴール

小型のメロディーIC「UM66T」は、曲のプログラムを内蔵し、低消費電力のつくりになっている。1.3〜3.3Vで起動し、圧電素子(スピーカーの代わり)と組み合わせると自作電池のようなわずかな電流でも音を出し、メロディーを聞きながら楽しく実験できることがわかった。

【材料】(40人分)

メロディーIC UM66T※(100円)×40個、圧電素子※(リード線無し、50円)×40個、
コップ(プラスチック製の使い捨て)×40個、みの虫クリップ(赤と黒)×各40個、
ビニール線(赤と黒)各30cm×40本、両面テープ、ハンダ
注:※印の部品は、シリコンハウス横浜店(TEL 045-664-5177)で入手した。

【作り方】

第5図のように、基板を使わずに圧電素子にICの足を直接ハンダ付けした。

第5図 電子オルゴールの作り方

イ 電池付き電極

電解質溶液かどうかを確認させるために、片手でも簡単に操作できるように右図のような電池付きの電極を生徒数分自作した。これは、300Ωのフィーダー線に単3の乾電池と赤のビニール線を取り付け、ビニールテープで固定したもので、電子オルゴールにつないで使用した。

第6図 電池付き電極 ウ 反応皿

多数の試料を能率良く調べさせるために、発泡スチロールに熱した試験管で凹みを6個つけた反応皿を生徒数分自作した。ほとんどの試料で使えたが、界面活性剤が入っているような一部の試料では小さな穴を通して、液が漏れるものがあった。

第7図 反応皿

(3)個別選択実験の内容

ア 【実験1】電解質の確認

第8図のようにいろいろな溶液などの試料(第4表)に電池付き電極と電子オルゴールをつなぎ、電流が流れるか(電解質水溶液か)を調べさせた。このとき、各試料の扱いは、次の方法を参考に各自で工夫させた。

第8図 電解質の確認

・液体の試料(コーラ、紅茶など)
試料を反応皿に数滴取って電極を差し込ませた。
・固体試料(砂糖、漂白剤など)
試料を反応皿に小量取り、精製水を数滴加えてから電極を差し込ませた。
・くだもの(みかん、リンゴ、ゼリーなど)
数mm程度の小片にしたものを配布し、電極で挟むように測定させた。
・植物(タンポポ、ハコベなど)
葉の一部を切りとり、指先で揉んでから、電極で挟むように測定させた。
電子オルゴールは非常に敏感であり、水道水でも音が出るため市販の精製水を使用し、 試料を替えるときは、電極を洗浄させた。

イ 【実験2】溶液の違いによる電池の確認

第9図のように実験1と同じ試料(第4表)にマグネシウムリボン・銅の針金と電子オルゴールをつなぎ、電流が取り出せるか(電池ができるか)を調べさせた。各試料の扱いや

電極の洗浄については実験1と同じとした。

第9図 溶液の違い

ウ 【実験3】金属の違いによる電池の確認

第10図のように、希塩酸(1M)にいろいろな金属(第4表)の組み合わせを変えて差し込み、電圧計の読みを測定させ、電池ができるかを調べさせた。

第10図 金属の違い

エ 個別選択の方法

第4表の溶液などの試料はフィルムケースに小分けしたものから13〜14種(No1〜3は共通)、金属は5種類各2本ずつをトレイにまとめ、グループ毎に配布した。グループ(4人)内では、1人が実験3の測定を行い、他の3名で配布された各種の溶液を実験1・2の方法で分担して測定させた。

・実験1・2で使用した溶液などの試料(一部省略)

No 名 前 No 名 前 No 名 前
1 コーラ 31 梅干し 61 みつ豆の白桃
2 みかん 32 からし 62 〃 黄桃
3 塩酸 33 インスタントコーヒー 63 〃 パイナップル
4 サイダー 34 砂糖 64 トマト
5 バニラエッセンス 35 だしの素 65 玉ねぎ
6 食酢 36 アラビアのり 66 リンゴ
7 メタノール 37 池の水 67 カキ
8 水道水 38 ソース 68 キュウリ
9 醤油 39 水溜まりの水 69 ニンニク
10 みりん 40 ハコベ 70 緑茶
・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・ ・・・・・中略・・・・・ ・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
20 リンス 50 ツユクサ 80 みそ汁
21 シャンプー 51 タンポポ 81 豆腐
22 漂白剤(酸素系) 52 野菜ジュース 82 牛乳
23 味の素 53 ファンタグレープ 83 キムチ
24 洗濯用の洗剤 54 ポカリスエット 84 大根
25 重そう 55 みかんジュース 85 ようかん
26 ケチャップ 56 カルピス 86 バブ
27 固形の石鹸 57 グレープジュース 87 バラの花
28 みそ 58 みつ豆のチェリー 88 オシロイバナ
29 わさび 59 〃 シロップ 89 ハハコグサ
30 歯磨き 60 〃 寒天 90 食用油

・実験3で使用した金属

1:銅 2:鉄(釘) 3:亜 鉛 4:アルミニウム 5:マグネシウム

第4表 実験で使用した試料の一覧表

(4)生徒実験の結果

実験1・2の結果を第5表、実験3の結果を第6表に示した。

(5)生徒の実験結果の考察

実験1・2で生徒と追実験の違いの多くは、水分の少ない試料で指の揉み方が足りなかったり、電子オルゴールの極性の間違えなどによるものと考えられる。この結果から、生徒は、身近にある75種もの試料で簡単に電池ができることに驚嘆をし、すべての電解質から電池を作ることができることを導き出せた。
実験3では、生徒用の電圧計を使用したが、針の振れが静止せず、読みの値にばらつきが見られた。針が静止しないのは、電流が流れると電極で反応が進み分極が起こるため電圧が次第に小さくなってしまうためである。鉄(釘)と亜鉛の組み合わせで0Vを示すのは、市販されている釘の多くが表面を亜鉛でメッキされているためと考えられる。この実験から、生徒は、銅とマグネシウム以外の金属の組み合わせでも電池を作れることを導き出せた。
実験1・2ともに曲が聞こえなかった試料 メタノール、砂糖、食用油 [3種]
雨水、ミロ、コオニタビラコ、スズメノエンドウ、しょうが
実験1だけ曲が聞こえた試料 ようかん、アンモニア水 [なし]
実験2だけ曲が聞こえた試料 なし [なし]
実験1・2ともに曲が聞こえた試料 誰も測定をしなかった5種類を除く
その他の75種の試料 [87
※注:結果が疑わしいものには横線 を、追実験の結果は[]で記した

第5表 個別選択実験1・2の生徒の測定結果

同じ金属を使ったとき(V) 2種類の金属を使ったと(V)
銅と銅 0〜0.05 銅と鉄 0.3〜0.35 鉄とAl 0.2
鉄と鉄 0 銅とZn 0.3 鉄とMg 0.6
ZnとZn (測定者なし) 銅とAl 0.1〜0.3 ZnとAl 0.1
AlとAl 0 銅とMg 1.0〜1.2 ZnとMg (測定者なし)
MgとMg (測定者なし) 鉄とZn 0 AlとMg 0.75〜1.0

第6表 個別選択実験3の生徒の測定結果

4.中和の個別選択実験

中学3年の酸・アルカリ・塩の単元では、次のことが目標の1つとして掲げられている。
・中和反応の実験を行い、過不足なく反応する酸とアルカリの濃度と体積の関係を見いだすとともに、これをイオンに関連付けてとらえること。
この目標を達成するため、次に示す指導計画により、個別選択実験を取り入れた1時間の授業実践を行った。

(1)指導計画

学習の形態 主な指導内容 (1時間扱い)
個別実験
(共通)
個別選択
実験
○共通の個別実験
2種類の濃度の塩酸を水酸化ナトリウムで滴定させ、濃度と体積の
関係を見いださせる。
・0.05M塩酸の滴定 ・0.1 M塩酸の滴定
◎個別選択実験
身近な酸を水酸化ナトリウムで滴定させ、酸の濃さの違いを比べさ
せる。
・食酢の滴定 ・清涼飲料水の滴定

(2)個別選択実験の装置

ア 簡易ビュレット

自作の簡易ビュレット(第11図)は、ゴムの部分を摘まむだけで生徒でも簡単に液を1滴ずつ落とせるため、中性付近で指示薬の微妙な色の変化を見ることができる。また、注射器には、目盛り(0.2cm3単位)が振ってあり、滴定した体積を読みとることができる。

第11図 簡易ビュレットの構造

【材料】(40人分)

ゴム管(内径5mm外径7mm)長さ3.5cm×40本
ポリエチレン管(内径4mm外径6mm)長さ10cm×20本
ディスポーザブル注射器(プラスチック製、針なし、6ml)×40個
BB弾(オモチャのピストル用のプラスチック製の玉、直径6mm)×40個

【作り方】

第12図のように、ポリエチレン管を加工して組み立てた。

第12図 簡易ビュレットの作り方

(3)個別選択実験の内容

ア 実験の方法

第13図のように各試料(酸)を2cm3はかり取り、BTB溶液を指示薬にして滴定をし、液が緑になるまでに要した0.1M水酸化ナトリウム水溶液の体積を記録させた。
なお、この実験に際しては、生徒の操作性を考えて、水を入れた空き缶に割り箸を立てた台を作り簡易ビュレットを固定して使用した。

第13図 中和滴定の方法

イ 中和滴定の試薬

@滴定の標準溶液の調整方法
・0.1M 水酸化ナトリウム水溶液 固体4gに水を加えて1000cm3にした。
A試料溶液の調整方法(一回の測定に2cm3使用)
・0.1M 塩酸 (B) 濃塩酸を120倍に希釈した。
・0.05M 塩酸 (A) 0.1M塩酸を2倍に希釈した。
・清涼飲料水(アクエリアス) 原液のまま使用した。
・食酢 10倍に希釈して使用した。

(4)生徒実験の結果

試料溶液(各2cm3) 水酸化ナトリウム水溶液の体積(cm3)
塩酸A (0.05M) 1.0
塩酸B (0.1 M) 2.1
アクエリアス 0.6
食酢 (10倍希釈) 1.5

第7表 代表生徒の実験結果

(5)生徒の実験結果の考察

はじめは、1滴ずつ液を落とせなかった生徒も、実験を進めるうちに操作に慣れ、中性付近の色を見ながら滴下量を調節できるようになった。各生徒の測定値のばらつきは、ほぼ最小目盛り(0.2cm3)以内であり、良好な結果が得られた。アクエリアスと食酢については、弱酸であるため中性付近の色の変化が明瞭でないが、中学校の実験の目的としては特に支障がないと考えられる。この実験から、生徒は酸の濃さに違いがあることが考察でき、後の授業でイオンのモデルを使いながら量の関係を考える上での糸口となった。
今回の実践では、充分な選択をさせることができなかったが、多くの清涼飲料水や炭酸飲料水(無色や白色のもの)が原液のまま利用できることから、試料の種類を増やして個別選択実験として行うことも可能であることがわかった。さらに、ブドウジュース(果汁入り)については、指示薬を加えなくても変色することから、指示薬の学習を深める上で適した素材であることもわかった。

実践結果と考察

実践後の生徒の感想(第8表)やアンケート(第14・15図)の結果から、個別選択実験について次のことがわかった。

1.個別に実験すること

★生徒の意欲的な活動を伸ばし、自然を探求する能力を育てる上で効果的である
一人で実験をさせたことにより、生徒は、自分のペースで「じっくりと様子を見られる」ため、「1滴で色が変わる」ような微妙な変化も見逃さずに詳しく観察できた。また、生徒は自分の実験に集中でき、互いに「わからない部分を聞いたり」しながら意欲的に実験に取り組むことができ、生徒の反応も良好であった。(第14図)グループ実験では、人の操作を「ただ見ている」だけの生徒がみられたが、個別実験では、自分の手で実験することで、自然を探求するのに必要な基本的な実験の能力を体験を通して身に付けさせることができた。このように、個別実験は、生徒の意欲的な活動を伸ばし、自然を探求する能力を育てる上で効果的な学習方法であることがわかった。
個別実験をするためには、一人でも簡単に操作できるような装置を生徒数分用意する

必要がある。そこで、試験管やフィルムケースのように数が揃えられる器具を活用するとともに、小規模でも実験ができるような装置の開発や実験方法の改善が必要であった。一人に一つの実験をするため、使用した器材の種類や数は多かったが、あらかじめグループ毎に小分けしたことで、混乱なく配布することができた。

第14図 生徒アンケートの結果

2.個別に実験方法を選択すること

★生徒の自然に対する科学的な見方や考え方・関心を高める上で効果的である
★生徒の個性や能力に応じて主体的に探求する態度を育てる上で効果的である
生徒は、一人一人が「自分の考えた方法」で異なる実験をしたことから、「ドキドキ、ハラハラ」しながら「時間が短く感じる」ほど充実感を持って活動でき、生徒の反応も良好であった。(第15図)これは、事前の授業の流れの中で練習した基本的な操作をもとに、個性や能力に応じて主体的に実験したためと考えられる。日常生活に関わりの深いジュース・調味料・雑草など、身近な素材を使った実験は、生徒にとって「驚き」であり、自然を探求する態度を育成する上で効果的であった。実験結果は膨大な量になったが、これを整理し、考察する過程において、科学的な考え方を身に付けさせること
  【気体】 【化学電池】 【中和】








・じっくりと様子を見れるので、やり易かった。
・気体の発生装置があり、
実験が楽にできた。
・ただ見てるより、自分で実験できるので良かった。
・曲で電流を調べるのが楽しかった。
・部屋中に曲が響いたが、耳の近くにやるときれいに聞こえて楽しかった。
・装置が使い易かった。
・1滴で色が変わるので、1滴の重要性がわかった。
・集中してできた。
・一生懸命やった。
・色を変えるのが面白かった
・緑にするのに苦労した。
・わからない部分は聞いた。
・わかり易かった。
・2つ目までしかできなかったので続きをやりたい。
・蒸発もやりたかった。







・自分で考えた方法でやる
実験が一番楽しかった。
・ドキドキ、ハラハラで良
かった。
・充実してできた。
・気体の性質を覚えるのに
苦労した。
・わかりにくい実験もでき
るようになった。
・気体のことが良くわかっ
たから面白かった。
・時間が足りなかった。
・もう一度やってみたい。
・一人ずつ違う実験ができ
て面白かった。
・時間が短く感じた。
・ジュースや料理に使うも
のを調べられて良かった。
・意外な物に電流が流れた
り電池になったりして、
不思議で驚いた。
・もっといろんな種類を調
べてみたい。
・電池を作ってみたい。
・混ぜると電気が強くなる
か調べてみたい。
・どうして電流を流れたり
電池ができたりするかを
知りたい。
・2つ目までしかできなかっ
たので続きをやりたい。
・蒸発もやりたかった。

第8表 各実験の生徒の感想の分類

ができた。実験後に「もっと調べてみたい」と考えている生徒が多いことは、生徒が自然に対して関心を示し、主体的に探求しようとする態度が身に付いてきた現れと考えられる。このように、個別選択実験は、生徒の自然に対する科学的な見方や考え方・関心を高め、生徒の個性や能力に応じて主体的に探求する態度を育てる上できわめて効果的な指導方法であることがわかった。また、このような実験の内容としては、「気体」のように探求的な場合や「化学電池」のように帰納的に法則性を導く場合に適していることがわかった。

授業の実践においては、事前の準備等で教師にかかる負担は大きく、実験器具の自作やグループ毎に試薬を小分けするために多くの準備の時間を必要とした。しかし、実験装置は全員共通であり、次年度も再利用できることから教師の負担は、最小限で済むと言える。単元内の一部で個別選択実験をしたことは、一つの単元すべてをモジュール化するよりも、教師の負担が少なく、評価や結果をまとめる上での問題も少ないと考えられる。

第15図 生徒アンケートの結果

おわりに

個別選択実験を取り入れたのは年間指導計画の中のほんの一部であったにもかかわらず、以後の生徒の授業に取り組む姿勢が積極的になってきた。実験後に、「もっと知りたい」「自分で調べてみたい」と考えている生徒も多いことから、生徒の発想をもとに、「課題研究」へと発展させることが可能であると考えられる。
1年の実践後の感想の中に、ある生徒が次のように書いていた。
一人ずつ実験をしたことはなく、やる前はオロオロしていたけど、いざやって
みると自分だけでじっくり様子を見られるのでとてもやり易かったです。そして、
私達は、後にも前にもこんな機会は少ないだろうからとても良い経験でした。
日常の指導の中では、マニュアル化した実験が多く、生徒に発見の喜びや実験の楽しさを充分に教えられていなかったことを感じさせられた。これからの指導の中で、生徒が直接体験を通して、自然を探求する喜びが味わえるような機会を増やすことが大切であると考えた。
この研究が、今後の授業を考える上で、少しでも参考になれば幸いです。

参考文献

1.京野勝 他.1987.化学教材の開発と系統的位置づけに関する研究.神奈川県立教 育センター研究集録6:37-40
2.桜井隆一 他.1991.ポリエチレン管やフィルムケース等を使った簡易実験器具の 製作と実験.神奈川県立教育センター研究集録10:39-42
3.文部省.1989.中学校指導書理科編


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