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<中学・理科>
生徒主体の授業の創造
体験重視の大気圧の実践
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学習指導要領には、自ら学ぶ意欲と、社会の変化に主体的に対応できる能力の育成を
重視することが述べられている。そして、理科においては、科学技術の進歩、また、そ
れに伴う社会の変化などを考慮し、自然に親しむことや観察・実験などを一層重視して、
問題解決能力を培い、自然に対する科学的な見方や考え方、及び関心や態度を育成する
指導を充実するように述べられている。そこで、「主体的な授業の創造」をテーマに、
生徒一人ひとりが直接、自然の事物・現象に働きかけ、自ら考え、主体的に探求的活動
を進めていく授業を設定し、実践を通して研究を進めることにした。
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■ 実践:体験重視の大気圧の実験
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1 テーマについて
(1) 生徒主体の授業
現在、行われている、実験・観察の多くは、マニュアル化した一つの方法に従って、
結果を導き出していく受け身的なものが多いと思われる。特に、大気圧の単元では、
演示実験等で自然の現象を検証することが中心であった。今回、1年生は、過去の学
習した内容をベースに実験方法自体を生徒に考えさせることはできなかったが、幾つ
かの実験パターンを用意し、それぞれの体験を通して主体的に実験に取り組めるよう
な場を設定した。また、実験後に「なぜ、そうなるのか?」を自由に考えさせるよう
な場を設定するようにした。
(2) TTによる授業
マニュアルに沿って実験するだけでなく、個々の生徒の自由な発想に柔軟に対応す
るために、TTを組み、2人の先生で授業を行うことにした。TTを組むことで実験
の場を理科室の中だけでなく、屋外や廊下などにも活動範囲を広げることが可能にな
り、さらに安全の確保ができた。直接体験を増やし、一つの現象を多角的に調べさせ
ることは、単なる知識としてでなく、生徒の大気圧に対する概念そのものを変える力
があると思われる。本来ならば、実験の前後の授業でもTTを組みたいところだが、
今回TTを組んだのは、1時間だけである。
(3) 自己評価
自己評価カードを用意し、各授業の終わりに、観点別にチェックをし、疑問点など
を書かせることにした。これは、毎時間、一人ひとりが課題を持って意欲的に授業に
参加するとともに、個々の生徒の疑問にきめ細かく対応するためである。
2 実践の計画
(1) 単元 第1学年 第1分野 圧力とそのはたらき(大気圧)
(2) 単元の指導計画(5時間扱い)
ア 圧力・・・・・・・・・・・・・1校時扱い
演示実験(紙コップなど)を通して圧力の意味を考えさせ、計算練習を行う。
イ 水の深さと圧力・・・・・・・・1校時扱い
演示実験を通して水深と圧力の考えさせる。
ウ 大気圧・・・・・・・・・・・・3時間扱い
(ア) 生徒実験から空気に重さがあることを知り、実験の計画と予想を立てる。
(イ) 大気圧を実感できる実験を5種類準備し班毎に調べさせる。(本時)
(ウ) 実験結果を整理し、原理を考えさせる。
(3) 本時の指導目標と指導過程 (省略)
■一太郎4の形式の文書ファイル
3 生徒の活動と支援
(1) 実験補助プリント
■B4横の大きさのプリント
(2) 自己評価カード(省略)
(3) 実験結果と生徒が考えた理由・定期テストの結果
実験結果と生徒の考えた理由 ------------------------
【実験A】 長いストロー
30mのビニール管を屋上で折り返し、一方を色水、他方を簡易真空ポンプにつな
いで、水面が3階の上(10m)までしかあがらないことを観察しました。この実験
については全体で観察をし、原理をこちらから説明をしました。
□ 生徒の考え □
・ある程度上がると、上からの圧力で押されるからポンプまで水がこない。
・水を吸う力と圧力で水が上に上がる。
・空気を抜かれて、大気圧にも押されて、水が上にあがった。
・空気をぬいて圧力が長いストローの中になくなったから。
・中の空気を吸い出したため、水が大気圧で押し出された。
【実験B】 ペットボトル
ペットボトルにガラス管付きのゴム栓をし、簡易真空ポンプにつないで中の空気を
ぬき、ペットボトルがつぶれるのを観察しました。
□ 生徒の考え □
・中にかかる大気圧がなくなって、外の方にかかる大気圧でペットボトルがへこむ。
・中の外へ出ようとする力がなくなって、外から中への力だけになった。
・中の空気を取ったら、中の気圧がなくなり、外の大気圧が押してへっこむ。
・空気がぬけて、まわりの気圧に押されたから。
・空気を全部ぬいて、ペットボトルが空気と一緒にポンプに引っ張られるから。
【実験C】 吸ばん
大きさの違う2種類の吸ばんを使って、ばねはかりで引いて外れるときの力を測定
した。
□ 生徒の考え □
・面積が大きいと大気圧が大きいから。
・大きい吸ばんの方が、外から押す力が大きいため。
・大きい方が大気圧がかかる面積が多いから大きい方が外れにくい。
・面積が広いと大気圧が多い。だから、大きい方は小さい方より力を多く使う。
・大きい方は、面積分の力がかかり、くっついてしまう。
【実験D】 マグデブルグ半球
市販のアクリル製のマグデブルグ半球を3種類用意し、簡易真空ポンプで中の空気
をぬき、手で蓋をはずしました。大型のマグデブルグ半球は、一人でで外せないので、
廊下に出て数人掛かりで挑戦していました。
□ 生徒の考え □
・中の空気がなくなって、まわりの空気から圧力がかかって蓋が取れない。
・中の空気を全部ぬいて、真空状態になって、蓋も一緒に引っ張られるから。
・空気がぬけて、外の圧力で蓋が外れない。でも、思いきり引っ張れば、外の圧力が人
の力に負けて、外れる。
【実験E】 ラップ
容器の口をラップフィルムで覆い、中の空気を簡易真空ポンプでぬきました。ラッ
プの種類にもよりますが、サランラップでは、ものすごい音を出してラップが破裂し
ます。スリルがあるので、生徒にはかなり人気がある実験でした。
□ 生徒の考え □
・中の空気がなくなり、外の空気がラップを押し、ラップを割る。
・空気をたくさんぬいて、どんどんラップがへこみ、外の空気に押されて割れる。
・空気が吸い込まれて、外側からの圧力がかかり、空気が入ろうとして割れる。
・中の空気がなくなり、外の空気がラップを押して割れた。
定期テストの結果 ----------------------------------------
期末テストで、この実験について、次のような問題を出題しました。()の中の人数
は、それを答えた人数です。(1クラス40人です)
(問1) ペットボトルの中の空気をぬくと、つぶれるのどうしてですか?
ア、中の空気がなくなり、中から押す力がなくなったから。 (18人)○
イ、中の空気がなくなり、外から押す力が大きくなったから。( 4人)×
ウ、中の空気がなくなり、中から引く力が大きくなったから。( 4人)×
エ、中の空気がなくなり、外からの圧力が大きくなったから。(15人)×
(問2) 小さい吸盤より大きい吸盤の方がはずすのに大きな力が必要でした。これに
ついて正しい文を2つ選びなさい。
ア、大きい吸盤の方が、大気の圧力が大きい。 (35人)×
イ、どちらの吸盤も、大気の圧力が同じ。 ( 2人)○
ウ、大きい吸盤の方が、大気から受ける力が大きい。(36人)○
エ、どちらの吸盤も、大気から受ける力は同じ。 ( 3人)×
(問3) 蓋の部分の断面積が100cm2のマグデブルグ半球は、何kg重以上の力で外せま
すか。大気圧を1kg重/cm2として計算しなさい。
( ○100kg重=25人 ×その他の解答=7人 無回答=8人 )
(4) 授業の様子
本時(4/5)は、簡易真空ポンプなどを使ってA〜Eの5種類の実験を行った。まず、
実験Aを全員で観察した後、ローテーションを組みながら他の4種類の実験を班毎に
行った。TTを組んだことで、「もっと大きい方で実験をしたら?」など、その場に
応じて実験方法を工夫させるなど、柔軟な支援ができた。また、廊下を使ってマグデ
ブルグ半球を4人掛かりで引くなど、活動の場も自由に広げることもできた。自己評
価カードの平均が、どの項目も4時間目に最大になっているのは、生徒達が満足のい
く授業であったことを示している。
次時(5/5)には、理由を考えさせ、発表をさせた。実験Aについては、こちらで説明
をしたが、実験B〜Eについては自分達で理由を考えさせた。事前に、圧力の学習を
していますが、生徒の一部は、「圧力」や「力」の意味を混同しているようである。
期末テストの結果などを分析してみると、機械的に公式に数字を入れて圧力の計算は
できるものの、「圧力」を力の一種であると考えている生徒も結構いることがわかる。
生徒同士の考えをもとに、「圧力」についてもう少し深く考えさせたかったのだが、
授業の時間が十分に確保できなかった。結局、代表の生徒に理由を発表させた後は、
こちらで一方的に解説してしまった。
4 考察
(1) 生徒主体の授業
今回は、1時間の中で5種類の実験をローテーションを組みながら行ったことで、
生徒は、生き生きと実験に取り組んでいた。生徒自身が実験方法を考えることはでき
なかったが、直接いろいろな現象を体験することで、自然現象に対する驚きや疑問を
持つことができたのではないだろうか。大気そのものは身近だが、大気に圧力がある
ことを実感している生徒は少ない。こうした直接体験を増やし、一つの現象を多角的
に調べさせることは、単なる知識としてでなく、生徒の大気圧に対する概念そのもの
を変える力があると思われる。
(2) TTについて
今回は、打ち合わせも十分でなく、実験の時に1時間しかTTを組むことができな
かった。しかし、わずか1時間だけだが「もっとこうしたら?」「他の装置を使った
ら?」など、その場に応じて生徒に柔軟に支援したことは、生徒の主体性を伸ばすこ
とにつながると思う。生徒がじっくり考える時間を確保するためにもTTの必要性を
実感した。
(3) 自己評価カード
興味・関心は、演示実験や計算を中心とした1・2時間目より、生徒実験を中心と
した3・4時間目の方が高い値を示し、意欲的に取り組んでいたことが伺える。特に、
4時間目は、4項目とも最高を示している。このように1年生にとっては、自分の手
で体験することは、意味があると思う。しかし、理由を考えさせる5時間目は、関心
も低く、注意散漫な展開になってしまった。実験をしたその場で、理由を考えさせる
方が集中できたのではないかと思う。
毎時間自己評価カードを記入させたことは、個々の生徒の良いところを伸ばし、主
体的に授業に参加することを意図している。しかし、一部の生徒は毎回満点の5を付
けていた。生徒に意味を良く理解させた上で実施する必要がある。
※ 【参考】今回の実験で使用した主な器具
・簡易真空ポンプ(吸排式)中村 C15-6431 3,000円
・簡易真空実験器 ウチダ 123-0501 CV-20 (大型) 24,000円
ウチダ 123-0500 CV-10 (グループ用) 13,000円
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■ 実践を振り返って
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(1) 生徒が創造する授業
自由試行で未知の水溶液を探求する実践では、3年生であり、今までに蓄積した知
識を十分に生かして、生徒自身が探求方法を決めていた。生徒の中には、「最少の実
験回数で調べるには?」など、じっくりと考えながら、積極的に授業ができた。マニュ
アル通りの検証実験でなく、こうした自分たちが考えた実験は、本当の意味で生きた
力になると思う。
そのためには、生徒の発達段階を考え、1年生から、多くの実験・観察など自然の
事象に直接体験させるとともに、基本的な操作や基礎的な知識に重点を置いて指導す
べきであると思われる。教科書などに書かれている活字ではなく、体験を通して得ら
れた知識は、生きた力として身に付いていくと思われる。
今回の1年生の実践では、生徒自身に実験方法を考えさせることはできなかった。
しかし、複数の実験を用意したことで、生徒は、「もっと大きいもので実験をした
ら?」など、その場で工夫しながら意欲的に実験に取り組んでいた。
(2) 今後の課題
こうした探求的な授業では、各班で異なる実験を同時に行うことになり、安全の確
保の意味からも今回のTTのように複数教師による指導が必要になってくる。必要に
応じていつでもTTが組めるような体制作りが必要ではないだろうか。TTを組むこ
とで能率的に実験ができ、生徒がじっくり考えるゆとりができるのではないだろうか。
また、生徒が中心に実験を考えると、実験の準備なども複雑になる。今後、生徒主
体の授業をさらに進めていくためには、高等学校の「実習助手」のような制度の導入
も検討していく必要があると思う。
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